芦生、紅葉の森

明るい芦生紅葉原生林 04年11月 8日(月) 晴れ

クマよけの鈴があったほうがいいのじゃないかと心配しながらやってきた芦生(あしう)原生林歩き。団体では鈴はご遠慮くださいの案内状もきたし、誰も鈴をぶら下げた人はいません。今回、数年前に新緑の頃に来たことがある京都府側の西部のほうではなく、芦生深奥部と言われる滋賀県側北部の生杉(おいすぎ)から三国峠の辺りを、ガイドさんの詳しい説明を聞きながら案内してもらいました。27人の大団体。クマにもシカにも会いませんでした。
登リ口あたりの景色 大きなトチの木
登リ口から急な登りが続きます。このあたりは滋賀県が買い上げて原生林のままだそうで、ここを見ると、この辺り本来の植生がよく分かるそうです。 こういう沢沿いはトチやカエデの木が多いとか。
ハウチワカエデ 明るい原生林

コミネカエデ コハウチワカエデ

急な登りも、きれいな紅葉がうれしくて、上を見てはシャッターを・・・熟年の団体だからガイドさんもゆっくり行ってくれて、振り返ったりカメラをのぞいたり、苦しくはありません。

汗かいて、ハーハー言いながら鞍部にたどり着いたら、同じように明るい林だけれど、植生が全然違いました。沢筋とも稜線とも違うのだそうです。山林のどこでも問題になっているシカの食害が多く、この辺はシカが食べない毒のある植物ばかり繁っているとか。エゾユズリハ、アセビ(馬酔木)など。

ヤドリギ
ヨーロッパでは冬にも緑ということで、
生命力あるものとしてあがめられるとか
毒があって、シカが食べないから
増えたという
手前、エゾユズリハ、奥、アセビ
初夏にふさふさのきれいな花を咲かせる
らしいオオイワカガミ



根元に沢山ナラヒラタケ

食べられるそうで、ガイドさん、沢山採っていました
地元の人が自分の食用にする分にはいいのでしょう

ミズナラ
芦生と言えばブナ。関西では珍しい大木やブナ林があります。以前に歩いた辺りはまさにそうでした。ところがこの辺はブナの大木はあまりなく、ミズナラが多い。数十年前まで、この辺では山焼きをしたそうで、焼いた後、すぐに芽を出して育つのがミズナラとか。
昔、このミズナラはヨーロッパに輸出されていたそうです。非常に腐りにくい木でその特長を活かしたものになる・・・何になると思います? 棺おけだそうです。日本は土葬だったからすぐに腐る方がいいけれど、ところ変わればで、彼の地では、できるだけ生きていたままの状態を保つことが求められたそうです。
             
三国とは、丹波、近江、若狭の国
   (京都府、滋賀県、福井県)
三国峠頂上、776メートル
昔、ピークを峠ということがあったという
三国岳(959メートル)は近くにある
新しい標識
由良川源流の流れのそばに立っている
三国峠の辺りからの自然な流れが大きな川の源流となり、日本海に注ぐ由良川、琵琶湖に注ぐ安曇川の分水嶺になっています。100年間の約束で京大農学部が芦生原生林2000へクタールを演習林として借りて以来80数年経っているそうで、後10数年で返却すれば、この原生林もどうなるか。最近でも林道建設のために削った峠に古い地蔵があって、その地蔵の下には石に1文字ずつ経文を書いたものが埋めてあったのに、それがどうなったか分からないそうです。

三国峠からの眺め、比良山の武奈ヶ岳が見える
琵琶湖が見えることもあるそうだ
三国峠から少し下りた広場のような場所で
お弁当を広げる
きれいな紅葉、気持ちいい



登った分は下らなければなりません。下りは湿地というのでスパッツを着けました。落ち葉が多くて見えませんが、下は湿った土でよく滑ります。クリのイガが落ちているところで転んだら大変。自然に杖を持つ手に力が入ってしまいます。苦手な下りで、木の根っこをまたいだり、山の際の谷側に少し傾斜した靴幅くらいの狭い道。イノシシかカモシカの気分、なんて大げさだけど、足元だけ見ていると、時々頭がくらくらするような気がして、ゆっくりしっかり足を運べば大丈夫と自分に言い聞かせて、杖を頼りに下りました。私の前の人が、同じように下りが苦手らしく、前と大分間が開くほどゆっくりだったので助かりました。
左のナナカマドのぶつぶつの幹

ここ芦生は日本海側と太平洋側
両方の植物が見られる場所

ナナカマドの大木

源流域、沢を何度か渡渉します 今日初めての大ブナ、ガイドさん、うそかホントか
双眼鏡で葉っぱを数えたそうで、25万枚!

シカに幹のまわりをぐるりと食べられて
枯れてしまった大きなマユミの木

ミズナラの倒木、なかなか腐らない
  菌、地衣類、キノコがびっしり、
 ナメタケ、ツキヨタケ(月夜茸、毒あり)
 日本のキノコ3000種のうち名前がついているのは1000種
 キノコはまだ研究途上の分野



明るい日差しの入る紅葉と冬枯れに向かう木々の林。見ているだけで気持ちのなごむきれいな林です。ところが下草がまったくありません。こういう林では大体クマザサが一面地面を覆っているものなのに、まったくありません。 地球温暖化の影響だと考えられるそうです。

クマザサは、日本固有の植物で、見慣れているからなんとも思わないでいるけれど、日本の山独特の景観をつくっているのだそうです。

温暖化の影響は他にも、ブナの実が発芽しないとか、暖温帯性の昆虫が移動してきて、カシノナガキクイムシがミズナラを枯らす菌糸類を運んで、芦生のクマの命を支えてくれるミズナラを枯らし、どんぐりが少なくなっているとか。


この秋、全国的にクマが山里だけじゃなく、町まで下りてきて人に危害を負わせているのが、よく言われる今年の異常な台風の影響ばかりでなく、人間が山の中まで生活圏にしてきたことや、温暖化による影響まで。問題は大きく深く、結局私たち人間にとっても大変な事態になってきているということなのでしょう。

アシウスギ(芦生杉)
日本のスギは1種と言われていたが、
芦生のスギは葉のつき方が鋭角で
葉先が柔らかく、変種と認められた
芦生研究林全体図、
今回歩いたのは、右上のほんの少しの部分

地蔵峠にある前述のお地蔵さん 林道脇杉林のテープを巻いた木
シカに食べられないように

広葉樹の中にぽつぽつとアシウスギ、
手付かずの原生林
手前の杉林は植林
地蔵峠から、登山入り口までの林道を歩く
舗装されていない道がありがたい
心癒されるきれいな紅葉の景色を満喫。いろいろ勉強にもなりました。ホントに3.5キロ?思ったよりきつい上り下りで長く感じましたが、余力は残っています。季節を変えてまた来てみたい芦生原生林です。