前鬼不動七重の滝
自然の驚異と猛威の前に無力

1997年6月7日(土) 晴れ
奥熊野と聞いていました。大峰山を縦走して行をする人たちの道が登山道となっているような、簡単にツアーバスの入れそうもないところでした。
奈良県吉野郡下北山村。国道から一挙に村道に入ります。
6キロの長さのその村道は対向車がすれ違えないので、わざわざ乗用車1台大阪から伴走してきて、先に走り、対向車のないことを確かめてからミニバスが入っていきました。
展望台というカーブの先のちょっと広くなった場所でバスを降りると、対岸の遠くの谷間に見事な滝が見えました。写真を撮ろうとするみんなを制して、“写真は帰りに”と添乗氏が先を急がせます。
バスから急いで降りるのは分かりますが、ここで急がされた理由は分からず、帰りには滝が山の陰になって写真がきれいに撮れませんでした。

前年まではここから全体を眺めるしかなかったそうですが、この年は、滝の横に遊歩道を掛け、一番高さのある滝2段目そばまで登れるようになっていました。
透き通った清流前鬼川に架かったつり橋を対岸へ渡り、川原でお弁当を食べました。
6月の山はすごい!目に入ってくるものすべて、緑、緑、緑・・・・・・からだじゅうが緑に染まりそうという表現が大げさではないことが分かります。

前鬼川に架かるつり橋 つり橋から川原を見る
これがハイキング? 確かに山の中。滝の音が聞こえてきます。ただ、足元が・・・
全長2キロの銀色金網状階段をひたすら登ります。数人はリタイアされました。道のない川原を滝の下までさかのぼると言って降りていかれました。
こんな金網階段、ほんとうに嫌です。こんな見事な大自然。山深いところ。誰だってこんなもの登りたくない。

だけどまぁ、間近で見る重層の滝の見事さ。すばらしさ。何千年? 何万年? もかかって滝が後退し、岩を穿った丸い穴が何段も滝つぼとなって重なっているのです。

白い飛沫を上げながらとうとうと流れ落ちていく、その滝つぼの水の色! もう安直になんにでもエメラルドグリーンということばを使わないと、決心しました。澄み切った深い緑色。ずっと胸がキューンとなりっぱなし。美しい。上まで上がらなければ見られないこの色。だけど金網階段は・・・・・・

次に来たときには山を削って村道が広がっているかもしれない。他のすばらしい渓谷と同様、破壊につぐ破壊になるかもしれない。そう思って山から離れましたが、数年後の暴風雨でつり橋も階段も壊滅状態になったとか。
村が修復しないと決定したから、今では、昔のまま、対岸から眺めるだけになったそうです。きっともうツアーは組まれないでしょう。環境破壊に反対と言いながら、知らなかったと弁解しつつも、破壊に加担していいとこ取り、申し訳ない思いです。