2007年4月24日(火) 晴れ <薬師寺・玄奘三蔵院からつづく> 大 安 寺 東大寺、西大寺とならんで南大寺とも呼ばれたという南都七大寺のひとつ。南都というのは、平城京から平安京へと、都が北に移ったことから、京ではない南の都という意味で後の世になって呼ばれたものらしい。 また、当時の大寺というのは天皇発願による創建の官寺であって、武家や庶民が台頭してきた後の世に、時世にあった庶民信仰を得た寺は縮小しても寺として生き残ってきたようです。 東大寺は江戸幕府の援助などもあって、往時の勢いからそれほど衰えた感じはないし、今も世界中から観光客が押し寄せています。 西大寺も当時の建物などはなくても、中世の庶民信仰を得て、寺域はかなり広いまま存続しているのに対して、大安寺は、何度もの厄災に遭うたびに寺勢衰え、いまではすっかり田んぼや民家にまわりを囲まれて、大寺と呼ばれた面影はしのぶべくもない感じでした。 でも、すっかり荒れ果てた廃寺というわけではありません。 今日の夕方からは、ドイツ、チューリンゲン市ザールフェルト男声合唱団のコンサートが本堂で開かれると門の横に立て看板が出ていました。 ガン封じに霊験あらたかといわれ、笹酒を振舞う行事が有名だそうです。南大門の発掘調査がされたり、一木彫り天平仏が収蔵庫に7体も安置されていました。風雨にでもさらされたかのように、表面がささくれた感じですが、古代仏らしい体型も表情もどっしりした感じがよかったです。 右写真の石碑には中門跡とあり、後ろの建物は収蔵庫です。
元興寺・塔趾
方角としては先日拝観した元興寺・極楽坊の南側に当たりますが、隆盛を誇っていた大寺の頃と違い、衰微につぐ衰微の時代にどんどん寺域に民家が建ち並んで、古い町並みに細い道。今の奈良町一帯が寺領だったというだけあって、結構広い上に、それぞれが全然別の方向に入り口があり、とっても分かりにくい場所にありました。 このページトップの写真が礎石群の一部。大きな塔が建っていた想像が膨らみます。極楽坊の収蔵庫にあった10分の1という五重塔の模型がきっとそれでしょう。19世紀半ばに焼け落ちるまで建っていたというから、ここは民家にならずにかろうじて礎石だけでも残ったのでしょう。 庭としては結構な広さがあるところを、ボタンの花がきれいに咲いていたし、若奥さんという感じの女性が幼児を連れて花を植えたりして、大変な作業だろうなと勝手に思ってしまいました。無料で見学させてもらえます。
十 輪 院 十輪院は元興寺の旧境内の南東に位置するかつての子院のひとつとか。ここは予備知識なしに訪ねる楽しさを満喫しました。前に少しくらい案内書を見ていても、本物を知らなければそれほど一生懸命読まないし、難しい仏教用語などがあったりして、意味不明で覚えていないということもあるかもしれません。
本尊は大きな石造のお地蔵さんでした。建物の中に祀られた石造りのお地蔵さん。両脇に釈迦如来と弥勒菩薩を従えたお地蔵さんってとっても珍しいですね。地蔵菩薩は現在をつかさどり、両脇仏は過去と未来を示しているそうです。全体が大きな石龕でできていて、まわりに浮き彫りや線刻で石仏が刻まれて、まるで外国の遺跡でも眺めているような感覚。 本堂は大きくはないけれど、御所みたいに蔀戸(しとみど)が用いられ、鎌倉前期の建物(国宝)とか。昭和の大修理でそれまでの修理を元に復し、創建時のように復元完成させたそうです。
そのときに出土したという宝物が面白かった。小さいながら端正な地蔵菩薩6体と頭がふたつある両頭愛染明王坐像。秘仏ですという説明だったけれど、他のいろいろ珍しい仏頭や、まわりにとても小さい12神将を配した薬師三尊像が入った厨子など、小さい陳列棚に雑然と並べられたような感じだけど、ひとつひとつが、どれも秘仏に見えました。 なかに、頭が象でからだが人間というふたりがしっかり抱き合っている像があって、よく写真などで見るインドの仏教遺跡でも見ているようでした。
あまり観光客で本堂の中を拝観する人はいないらしく、寺務所らしい普通の建物で呼び鈴を押しても応答がなく、境内をひとまわりしてもう一度ベルを押してやっと住職の奥さんという感じの人が、本堂を開けて案内してくれました。電話中だったそうです。たったひとりにも丁寧な説明で、質問にも答えてくれ、ゆっくり楽しめました。こうしてみると、元興寺・極楽坊ではひとりで好きなように歩きまわれたのはよかったけれど、ちゃんと説明を受けたかった。
今日は、薬師寺で壁画を見た後、西ノ京駅に戻り、そこからタクシーで他の3つの寺をまわってもらいました。ずいぶん贅沢のようですが、バスツアーではこんな道の狭いところへ来ることはありませんし、バスツアー1回分にもなりません。それほど距離は長くないし、道なりに進んで最後の電車の駅まで連れて行ってもらえるので、疲れ方が少ない。元興寺の塔趾は、タクシーの運転手さんも知らなかったので近くの元興寺・極楽坊の受付で聞いてくれて、車では道が細くてとても無理といわれましたが、ややこしい細い道をくるりと回って、連れて行ってくれました。さすがプロ。地図ではすぐですが、これは歩いて行っても簡単に見つけることは難しかったでしょう。観光客が少ないところばかりだから、ゆったり好きなだけ眺めさせてもらえる喜びは何ものにも換えがたいものがあります。 以前は歩くのが楽しかったんだけど、今は寺の中を歩くだけで精一杯。これからもこの調子で奥の深い奈良を見てまわりたいと思っています。