大和路散歩・秘仏と椿
2010年3月17日(水)  くもり 後 晴れ
白毫寺(びゃくごうじ)は春日山から南につづく高円山山麓にあり、近鉄奈良駅からは4.5キロだそうで、元気なときでも歩いては往復するだけで精一杯。あちこちまわりたいし、歩きは境内と帰り道の2〜3キロにしたいから、今日も電車を降りたらタクシー。運転手さんも知らない伝光寺を探し、福智院とまわって白毫寺へ。

白 毫 寺
ここに来るまでに2つ石段を曲がって上ってきて
はぁ〜、この上にまだこの石段、悩みつつ上ると   
藪椿の散り椿、よし、もう少しがんばってみるか
古びた土塀と山門が、申し訳ないけどいい感じに見える あれからまた随分上ってきたよ、奈良の町がよく見える
秋になるとこの石段の左右に紅白の萩が咲き乱れるとか


本堂とその前にある緋車椿の木 緋車椿
宝蔵 宝蔵横からの眺望、遠く生駒山までよく見える

本堂真ん中に鎮座していたのがどんな仏像だったか記憶にないが、前方向かって左に勢至、右に観音菩薩がかがみ加減に、片や手を合わせ、あるいは蓮花型の器を持っている姿が愛らしい。あちこちで見る、今日も伝光寺にもあった聖徳太子二歳像も安置されているが、本尊はじめ主な諸仏は後ろの宝蔵にある。閻魔王坐像と興正菩薩叡尊坐像(白毫寺中興の祖といわれる叡尊晩年の像)が興味深い。
今日のお地蔵さんめぐりにこだわったわけではないが、こちらの地蔵菩薩立像は、鎌倉時代の作というが、色がまだ剥げ落ちるまでいっていなくて、光背の彫りも見事。生きた人間のようなお顔が慈悲深く感じられる。



石仏の道
どこまで続くかと思ったが、本堂横を少し上ったり下りたり
下りたところに、右の不動明王とある石仏が・・・ 後ろの火炎がなくて寂しそう


ひとつの幹から五つの色合いの花が咲く五色椿
満開とはいかなかったけど、左上と中の方には咲いているよ
写真をクリックすると説明板が別画像で出ます
寺名になっている「白毫」というのは仏の眉間にあって光明を発したとされる白い毛のことを指すらしい。





新 薬 師 寺

タクシーはここで降りた。この後ゆっくり新薬師寺と隣の写真美術館を見て、近鉄奈良駅までぶらぶら歩く予定。
大好きな十二神将がいつ来ても拝観できるから、奈良へ来るとよく寄る新薬師寺。今日は、祈りの回廊にちなんで、秘仏公開というのでわくわくしながらやってきた。
秘仏といっても、旧国宝ではあるが、近代に入ってから盗難にあって、寺に残っている写しだという香薬師如来立像。
右の立て看板をクリックすると一部拡大図が別に出ます。
いつ来てみても、古代らしいおおらかな金堂と仏像たちに心豊かになる思いがする。写しであっても香薬師如来立像のやさしい姿に魅せられた。

語呂合わせ、気をつけてお帰りくださいの、蛙

新薬師寺の鎮守である鏡神社 拝殿の奥にあるのが本殿
南大門横にある南都鏡神社は藤原広嗣を祀り、かつて春日大社本殿だった建物を移したものという

奈良時代、この地での政争は激しかったらしく、唐帰りの優秀な僧、玄ムと対立して処刑された藤原広嗣の祟りで左遷先の北九州で死んでしまったとされる玄ムの頭が奈良まで飛んで帰ってきたのを葬ったのが頭塔だという伝説。 もちろん当時から否定されただろうが、広嗣に祟り殺された玄ムの祟りという、二重の祟りが込められた複雑怪奇な怨霊伝説だ。その玄ムが建立したのが福智院であり、藤原不比等の孫ではじめの怨霊の主、藤原広嗣を祀ったのがこの鏡神社だという。
病気や死、天変地異も、恨みを呑んだ人間の怨霊によると信じられていた頃の、祟りを封じるため造られた宗教施設が残って、現代も信仰の対象というのが、興味深いけどちょっと怖いような・・・




入江泰吉記念奈良市写真美術館
新薬師寺を出ると長い石垣と塀、これが写真美術館
先を右に曲がると入り口
正面玄関
玄関ドアに貼ってあるポスター、中にせんとくんの立て看板
イメージキャラクターに選ばれた当初は、仏像の頭に角なんてとカンカンガクガク
しかも、鹿の角じゃなくカモシカの角だとまで騒がれたが、
今じゃなじんで、どこでもこのせんとくんがお出ましだ

奈良を撮りつづけた写真家入江泰吉の写真から、大和路巡礼と銘打ったシリーズの第3弾として飛鳥の里を取り上げ展示している。今年はじめから3月22日まで。
奈良の寺や仏像を見て歩けば、どこかで入江泰吉の写真集を見かける。50年昔の白黒写真あり、最近のカラー写真あり。見慣れた大和の風景写真と思っても、人の暮らしのある風景、古い歴史を思わせる風景。野仏と田んぼ、野辺の花、霧にかすむ山々。どれも、多分、心象風景としての入江泰吉の写す風景が、見る人の心に入り込んで、実際に自分の目で見たような気になってしまっているのかもしれない。
新しくきれいな建物で、くたびれてお腹もすいたから、1階喫茶室で紅茶とシフォンケーキをいただいてゆっくり
展示室は地下、トイレは地下へ下りる階段の途中
というわけで、エレベーターを使ったら結局階段を上ったり下りたり
     


帰 り 道

足が強くなった。タクシーを使っておいて何を言うかと叱られるかもしれないが、寺の境内というのは結構広いし、どこにも階段はつきものだし。美術館で見てまわるのも意外に疲れる。今日は、とくに白毫寺の石段が長かった。といっても100段ないかな。
帰りは春日大社の杜の中を歩こうかと考えていたが、浮見堂を1度も見たことがないよ。杜へ入らず、横の車道をいやいや歩いた。およそこのあたりかと曲がったところがどんぴしゃ、浮見堂。久しぶりだね。方向と距離が合ったのは。そんなことも、崩れた土塀に鹿の姿もうれしくて、ずっと気分よく駅まで歩けた。次はどこに行こうかなぁ。
鷺池に浮かぶような浮見堂 壊れた土壁に鹿、もしかしてこの土壁
明治の廃仏毀釈で壊された興福寺の土塀か